こんにちは!この春から地域おこし協力隊として、にかほ市にやってきた高舘翔太たかだて しょうたです。

にかほにまだ来る前のこと。美味しいお店はないかなぁとGoogleマップで検索していると、目に留まった一軒のレストラン。その名は「ファミリーレストラン123ひふみ」! 初めて見た時はその名前のシンプルさに惹かれたことを覚えています。

「123」と書いて、「ひふみ」と読むのは引っ越してきてから知ったこと。
海沿いにあるレストランで、店内からは美しい象潟きさかたの海を眺めることもできます!
看板メニューは、担々麺!担々麺だけで5種類もあり、注文の7割は担々麺だとか。

「123」の担々麺の特徴は、ふわふわのいり卵が載っていること。地元産「上郷かみごう養鶏」の卵を使っています。10種類のスパイスが調合されたラー油と、クリーミーなごまペーストが合わさり、まろやかさがあるのもポイント。

シャキシャキネギと風味豊かな黒ごまが特徴の「黒胡麻担々麺」(左上)、マイルドな味わいの「NEW担々麺」(右上)、味噌がベースの「野菜たっぷりミソ担々麺」(左下)、ひき肉の味がガツンと来る2代目マスター考案「汁なし担々麺」(右下)

何度か訪れてから知ったのですが、担々麺以外にも豊富なメニューがあります。本格中華に、パスタ、トンカツ、お子様ランチ……。
サックサクの唐揚げや餃子、天津飯は隠れた人気メニューで、何を頼んでもとっても美味しいです。定食メニューもぜひ食べてみてほしい!

 

そして、この独特な店内。圧倒的情報量が、あなたをお迎えします。

担々麺が看板メニューな理由って?独特な世界観に隠された愛?
ここはいったいどんなお店なのか。
二代目マスターの村上拓哉むらかみ たくやさんにお話を伺いました。

村上拓哉むらかみ たくやさん(35)
にかほ市象潟きさかた町生まれ。県内の大学に進学後、県外企業に入社。その後、象潟に戻りお店を継ぐことに。2016年から3年間、秋田市に支店をオープン。現在は象潟で二代目マスターとして店を受け継ぎ、父とともに店を運営している。

この町とともに42年。激辛だった担々麺

―このお店はどのくらい前からあるんですか?

今年(2020年)の7月で42周年になりました。

―そんなに前から、この町にあるんですね!初めてお店を知ったとき、「123ひふみ」という店名のシンプルさが気になりました。この由来は?

うちの親戚が由利本荘ゆりほんじょう市に店を持っていたんですが、それが「一二三ひふみ」という名前で。飲食店の経験があった父は、その象潟の支店を任されたんですね。その後、父がその店の権利をもらって自分の店を始めました。それに合わせて、名前もガラッと変えようと思ったものの、地域にはこの名前のほうが馴染みがあるということで、アラビア数字の「123」に変えるだけにしたそうです。

―なるほど。親戚から受け継がれた屋号だったんですね。担々麺屋さんでもなく、中華屋でもなく「ファミリーレストラン」とのことですが、これには何か理由があるんですか?

父は学生の頃、ドライブインでアルバイトをしていたそうなんです。なのでレシピを豊富に持っていたのと、「家族みんなでごはんを食べてもらいたい」っていう思いもあってつけたのかなと。
それから父親はすごく新しいもの好きで。東京にもちょくちょく行ってたんですよ。そこで出会ったファミリーレストランを、当時はまだなかったであろうこの町に取り入れてみようという感覚もあったのかもしれないですね。

―「123」といえば担々麺が一押しメニューですよね。メニューは様々ありながら、中華が主軸になっているのはなぜですか?

父が以前働いていた店の研修で、有名店から四川しせん料理を習ったそうなんです。中華のメニューが多いのはその技術を生かして。お店のスタートの時は、メニューは担々麺だけだったんだそうです。当時のお客さんから話を聞いたら、最初はすごい辛かったらしくて。「辛くてもう食えねぇよ」っていうくらい。だから今とは全然違うみたいで。

―今は卵も入ってすごくまろやかで食べやすいですよね。

担々麺ってそれこそ中華料理で、食べに行くと一杯1000円とかするじゃないですか。父はそれをもっと庶民的なものにしたかったみたいで。卵がのっているのも、親しみやすくするために入れ始めたようです。インスタントラーメンに卵のせたりとか、そういう感覚で卵が入るとぐっと庶民的なものになりますよね。今では、老夫婦がお店に入ってきて「担々麺2つ」とか注文もらうんですよ。広い世代に食べてもらえて嬉しいです。

一番人気の「NEW担々麺」。白湯ぱいたんスープがベースでまろやかさとコクのある一杯。

―町の方に合わせて、「123」の担々麺は広く愛される味に変わっていったんですね。担々麺がイチオシになったのはどうしてですか?

そこは母が詳しいかもしれません。

あのね、うちの担々麺って、一度食べるとまた食べたくなるんだって。お客さんからも「毎日食べても飽きない」って言われるのよ。当時象潟にTDK(電子部品メーカー)の工場があって、お昼時には会社員の人たちが並んでまでも食べてくれてね。それで種類も増えていって。

他に担々麺出してる店があるって聞くと必ず食べにいって研究したり。そうやってやってきたよね?

うん。「一生勉強」ってそのことだ。これで満足しちゃダメなんだな。

「ファミリーレストラン」という名前に葛藤があったんです

実は名前として「ファミリーレストラン」とついていることが、お店を継いでから疑問に思った時期があって。その名前のせいで、マイナスイメージになってしまうんじゃないかって。

―今でいう「ファミレス」というのは、良くも悪くも「手軽な」というイメージが強いかもしれませんね。

そうなんです。とっつきやすいイメージのあるのがファミレスだけど、安っぽくなるんじゃないか、そう不安に思ったんです。
けれど、今では考え方が変わりました。というのも、友人は、うちの店を誰かに紹介する時「ファミリーレストラン」って紹介するらしいんです。『誰がなんて言おうと、あそこは「ファミリーレストラン」だ』って。
それを聞いて、ああ、うちはいわゆる「ファミレス」とは別なんだな、この名前は町に浸透してるんだって思えたんですよね。

子どもの頃から通ってくれているお客さんが、自分の子どもを連れてきてくれたりもして。そうやって世代を超えて、町のみなさんが通ってくれるお店なんですよね。
そういうことから、だんだん自分の中でも納得できるようになりました。今では、むしろ「ファミリーレストラン123」という名前に誇りを持っています。

「客のために店がある」父のこだわり

―「123」の店内は独特な世界観ですよね。どこか海の家のようなビーチの雰囲気もあって。かと思えばビートルズの写真があったり、フィギュアがあったり。

これは父の趣味ですね。もう掃除も大変なんで、二代目としてはこの世界観残していくのか迷いどころですよ(笑)。

嬉しい「穴あきレンゲ」サービス。担々麺の具材を最後まで楽しめる
お子様ランチを頼むともらえる、おもちゃ。販売もしている。海辺で遊べそうなものも
平日のお昼はホットコーヒーが一杯サービス

―でも、よくよく観察していくと、こだわりの中にも愛を感じます。コーヒーサービスとか、穴あきレンゲとか。おもちゃが売っているのも「子どもを楽しませたい!」っていう思いからでしょうし。

あぁよかった。そういう風に思ってもらって。父はとにかくマメな人で、お店の中にいろんなものがあるんですけど、それを一つ一つきれいに掃除するんです。
父は相田みつをが好きなんですけど、それに影響されてか、父自作の「客のために店がある」っていうのも飾ってあったりして。いつも「お客さんのために」というのは意識していたと思います。

―なるほど。お客さんを楽しませたいという思いが根底にあるんですね。

私が継いでからも、Free Wi-Fiを設置したり、キャッシュレスの支払いを充実させたりしています。取り入れられるものはとりあえず試してみて、それを繰り返してより良いお店になっていくことを目指しています。

―お話を聞いていると、拓哉さんがお父さんを大切に思っているんだろうなぁというのが伝わってきます。何かお父さんから学ばれたことはありますか?

そういう風にいざ言われると照れくさいですね(笑)。
父は従業員の教育には口うるさくて。自分が調理しながらでも、常にスタッフの接客は見ている人です。「123さんで教育されたスタッフはしっかりしてる」っていうのはこの辺でも有名みたいですね。

その姿勢は私も引き継いでいて、スタッフには「自分のファンを作るのを目標に」と伝えています。そうすれば、またお店に足を運んでいただけますから。

―そういえば、ここのスタッフの方は、一度来ただけなのに顔を覚えてくださっていて。僕もすっかりお店のファンです。

父が42年この地でやってきて、地域の人から親しまれる店を作ってきたのは尊敬します。このお店を続けていきたいと思うし、お客さんのことを大事に思っているのでこの店は残していきたいですね。

時代を見据えた店の戦略―まずは味を引き継ぎたい

自分が継いでから、先のことを考えた時に、やっぱり町に人が少なくなっていることは念頭にあって。情報発信だけでは、お客さんに来てもらうのはなかなか厳しいなと。
それで、大きく2つのことに取り組みました。秋田市への出店と担々麺の全国発送です。

―秋田市にも出店されていたんですか!まずそのお話をお聞かせください。

はい。2016年から3年間、秋田市に「ファミリーレストラン123」の支店を展開したんです。ここでは、「123」の担々麺だけをピックアップして提供していました。味は象潟のものをそのまま受け継いで。

―どうして秋田市に出店されたんですか?

情報発信でお店のことを知ってもらえたとしても、実際に足を運んでもらうのはなかなか厳しい。だけど、「一度食べてもらえれば絶対好きになってもらえる」っていう自信があったんです。食べてもらえさえすれば、象潟にもきっと足を運んでくれる。そう信じて始めました。
実際、今、秋田市の店舗に通ってくれていたお客さんが、象潟の店に来てくださってます。

―担々麺の全国発送についても、聞かせてください。

秋田市での支店の展開は、あくまで実際にお店に来てもらえる人を増やすのが狙いでした。ただそれだけでは、人が減っていくこの時代に限界があります。

それで、一年ぐらい試行錯誤して全国発送もできるよう担々麺をパッケージ化しました。実は以前から、持ち帰って友人に紹介したいっていうお声はいただいていたんです。

口コミで全国に広がっているみたいで、「友人から紹介されて注文しました!」「今まで食べた担々麺で一番おいしかった!」というような声もたくさんいただいて嬉しい限りです。

―二代目として引き継がれて、これからどのような展望を描いていますか?

まずはしっかりと初代の味を引き継いでいこうと思っています。以前は担々麺だけが私の担当だったのですが、最近になって全メニューを任されて作るようになったんです。現在は父と仕事を分担しながらお店を運営しています。

―先ほど数えてみたら、和・洋・中と合わせてメニューは80種類以上もありました。レシピも多く味を継がれるのは本当に大変そうです。

そうなんです。全てのメニューにしっかりとしたレシピがある訳ではないので、自分が食べてきた味を思い出しつつ、あとは美味しさを追求して作っています。

初めは一品一品、父から味のチェックを受けていました。寡黙かもくな人で丁寧に教えてくれるわけではないんですけど、「スープもう少し」とか「醤油が足りない」とか、アドバイスを受けながら。
「二代目になって味が落ちた」なんて言われないように、どの味もしっかりと継承してやっていきたいです。

「家族みんなで楽しんでもらいたい」。初代マスターの思いから始まった「ファミリーレストラン123」には連日多くの人が訪れ、町の人から愛される場所になりました。今では二代目へと店が引き継がれ、この「ファミリーレストラン」という名前には、世代を超えた「ファミリー」のためのお店、そして、そのお店を守っていく村上「ファミリー」の存在がありました。

今度このお店に訪れる際には、ぜひ味の裏にある「ファミリー」の存在を感じながら、友達、家族と恋人と、みんなでおいしく楽しい時間を過ごせてもらえたらと思います。

【ファミリーレストラン123】
住所:秋田県にかほ市象潟町荒屋下21
営業時間:11:00~15:00 / 17:00~20:30(L.O)
定休日:水曜日

「ファミリーレストラン123」の担々麺はこちらのオンラインストアからもお買い求めいただけます!
http://family-restaurant123.com/