2020年10月18日に、にかほのほかにで開催された「オンラインいちじくいち」。そこで公開された「いちじく忘れない」というミュージックビデオは大きな反響をいただきました。
この記事では、そのミュージックビデオがどのように制作されたのか、レポートしていきます。

「いちじくいち」とは?
秋田県にかほ市で2016年に始まったマルシェイベント。閉校になった小学校を会場に、にかほ市や、秋田の魅力を伝える。にかほ市は、北限のいちじくの産地であり、その「いちじく」を「軸」に、にかほ全体を盛り上げていこうというコンセプトで開催されている。2020年は、通常通りのマルシェは開かず、にかほのいちじくの魅力やいちじくいちを開催する思いなどを伝えるオンライン番組を配信した。

いちじくいち公式HP

「いちじく忘れない」ってどうやってできたの?

2018年のいちじくいち開催の前夜、準備で大忙しのスタッフのもとに一通のメールが届きます。
メールの送り主は、関西で活躍する、ミュージシャンの早瀬直久はやせなおきさん。早瀬さんは、いちじくいちの開催当初からイベントに関わり、会場でライブをしてくださったこともありました。
早瀬さんから届いたメールには、音楽ファイルが添付されていました。それこそが「いちじく忘れない」だったのです。
早瀬さんは、いちじくいちや、にかほに携わる中で、その風景や出来事から感じた言葉をノートに書き留めていたそうです。その言葉から歌詞をつくり、生まれたのが今回の楽曲。

準備に励むスタッフに向けての、早瀬さんからの粋なサプライズプレゼントでした。運営のスタッフにとっても大切な一曲となった「いちじく忘れない」。「今年はいちじくいちは開催できないけれど、この素晴らしい楽曲を活かして、町のみなさんと一つのものをつくりたい!」そんな思いから、今回のミュージックビデオの制作が始まりました。

早瀬直久はやせなおきさん(ミュージシャン)
音楽ユニット「ベベチオ」のボーカルギター。映画やCMなど様々な分野で楽曲を手掛けている。よそ見をモットーにしている企画チーム「ragumo」の代表も務め、ジャンルを問わない企画やコラボなど多岐にわたる活動も展開している。

ragumo official site:ragumo.jp

withコロナの新たな挑戦「リモート制作」

今回、監督、編集、振り付けを担当してくださったのはホナガヨウコさん。ダンスパフォーマンスや振付家、モデルとして活躍されています。東京在住のホナガさんとは、今回、全行程においてリモートでやり取りをしながら制作していきました。

ホナガヨウコさん(ダンスパフォーマー/振付家)
ダンスパフォーマー/振付家。MV、CM、舞台、ライブ、雑誌等、子供向けからファッション系まで幅広い媒体において出演・振付をする。また、映像監督や音楽制作、親子支援や企業研修における身体表現の講師を務める等、その活動は多岐に渡る。

official site: www.honagayoko.com

まずは、ホナガさんと、いちじくの生産やいちじくの甘露煮の製造に携わる方をZoomで繋いでヒアリングするところからスタート。
いちじくを収穫する動きや、収穫したいちじくをサイズごとに選別する動き、甘露煮を作る動きなどを参考に、振り付けがつくられていきました。

その後、本番の撮影に入る前に、実際にMVに出演される方々に向けてワークショップを開催。ここでは、ホナガさんから、どういう風に身体を動かすと観る人に伝わるのかというポイントを教えていただきました。

2020年09月13日開催 にかほのほかに教室03「にかほをPRする動画づくりに参加しよう!〜映える身体の動きを知る〜」

そしてむかえた撮影当日!
各撮影現場では、東京にいるホナガさんと、スマホのビデオ通話で繋いで動きをチェック。そこであがったホナガさんからの修正指示を、スタッフが出演者に伝える……ということを繰り返して撮影していきました。

撮影は6日間に渡って行われ、ロケ地は約30ヶ所! 分刻みのスケジュールで、にかほ市じゅうを駆け回りました。
また、屋外での撮影は天気が命。当初は雨予報だった天気も、撮影期間中はスタッフの願いが届いたのか全日快晴。お天気にもなんとか味方してもらえました。

いちじく生産者のみなさんと早朝からの撮影。収穫期で忙しい中、事前に振り付け練習のために集まり、何度も練習を重ねました。
ふだん甘露煮をつくっているお母さん方には、その工程をもとにした振付をしてもらいました。事前に練習はしていたものの、本番となるとなかなか動きが揃わない。数十回に及ぶテイクを重ね作り上げたシーンです。
冒頭の「道の駅 ねむの丘」での一枚。ガチガチに緊張していた子どもたちをほぐすため、スタッフは一緒に全力で遊ぶことに。あのシーンは、実は「だるまさんが転んだ」をしながら撮影したんです。
中島台・獅子ヶ鼻湿原ししがはなしつげんでは、機材を担いで片道30分かけて撮影場所へ。大変な撮影かと思いきや、帰ってきた撮影クルーは「自然にとっても癒やされたー!」と過密なスケジュールのリフレッシュになったようです。
地産地消型ヒーロー「超神ネイガー」のシーンでは急遽、田んぼを背景に撮影できないかということに。たまたま作業していたご夫婦にお声がけして、コンバインまでお貸りしました。「まさかネイガーと写真を撮れるなんて」とご夫婦。たくさんの方のご協力があったからこそ、完成したビデオなんです。
今回のMVを撮影したのは、秋田県能代市出身のカメラマン、九嶋和之くしまかずゆきさん。一つの場面でも数種類のレンズやカメラを使い分け、にかほの美しさをどうやったら伝えられるかということをじっくり考えながら撮影してくださいました。

にかほ市を全力で駆け回った撮影。総勢130名以上のにかほ市民にご出演いただき、いちじくを軸としながらも、にかほの美しい風土や美味しい食べ物、この土地に暮らす素敵な人々の魅力がつまったミュージックビデオに仕上がりました。

ホナガさんはリモートでの制作を経て、「今回はたくさんのにかほの名所を見せてもらいました。資料でいただいた映像や写真を見て、自然がすごくきれいでいいところだなと感じています!ぜひ自分の目で見に行って『ここがあのシーンの場所か!』と体感したいと思います」とおっしゃっていました。
ご出演いただいたにかほ市の皆さま、早瀬直久さん、ホナガヨウコさん、関わってくださった多くの方々に改めて感謝申し上げます。ありがとうございました!

出演してくださったみなさんからコメントをいただきました!

■ 今野ミヨ子さん、佐藤明子さん、鈴木カネミさん、齊藤玲沙さん(佐藤勘六商店)

わたしは80歳になるけど、いい記念になったなぁ。必死になってね。大変だったけど、終わってみれば、もう一回出てもいいよ~っていう気持ち。よくつくったと思って。東京に兄弟がいるから、(MVのURLを)送ってやった。いがったなぁ。どうもありがとうさん。

ほんと(動きが)揃わなくてね。難儀したっけな。秋田やにかほの良さが出てた。カメラマンの腕がすごいねぇ。神奈川県に住んでいる孫が「いちじくいち」に来たときに、「おいしい、たのしい、うれしい!」って言っていて。その感想を聞いたときにハッと気付かされるものがあってねぇ。外の人から、住んでいるところの良さを改めて教えてもらっているなって。甘露煮は東北の文化。このビデオで、いちじくを甘く煮るっていう文化を伝えられたかなって思います。

おべれねくて、おれなば(私なんか、覚えられなくてねー)
何回もやってなーいっぺ踊ったでなー
前でお手本がついていればでぎだけど、いなぐなれば大変だったな。
勘六(佐藤勘六商店)のごども、(全国の人に)観でもらえでよかったぁ。

思ったよりも大勢の市民が参加していて、そこがよかったなぁって。市長も出ていたり、街の知り合いが出演するMVはおもしろい。結婚して、にかほに来てからまだ2年。かき氷屋さんとか、新たな発見もありました。自分たちが普段作っている甘露煮も、すごく美味しそうに映ってた。ちなみに、「あんなに砂糖入れるんだ!」ってよく言われるけど、食べてみるとちょうどよかったりするんですよ。

■ 佐々木睦子さん(いちじく生産者)

わたしは、いちじくの生産者になって5年くらい。なかなか担い手がいないのはやっぱり問題に思ってるけど、わたしたちの世代がやり始めて、少しずつ知名度が上がってきたかな。
ビデオは初めての経験でした。練習は大変だったね。振り付けも全部覚えたし。
いちじくの収穫の様子や出荷するところ、煮るところとか普段見れないような人にも「おおーこうやってるんだ」って見せられるからいいね。楽しませてもらいました。ありがとうございました。

■ 鈴木みなみさん(いちじくいちボランティア)

今年はコロナの影響で、いちじくいちの開催は断念すると聞いて、とても残念に思っていました。でも、このようなわくわくする企画に声をかけてもらって、うれしかったです。いちじくの摘み取りから甘露煮作りまでの行程を、振り付けにしてダンスするなんてとても斬新ですよね。撮影前に行われた、魅せる体の動かし方のワークショップも勉強になりました。にかほの魅力が、さわやかに、かわいく、紹介をされ、とてもステキなミュージックビデオができて、家族や友だちにも出演したことを自慢しました。

■ 齋藤啓太さん(いちじくいちボランティア)

軽い気持ちで向かった撮影場所の母校。待っていたのはダンスレッスンと校庭ダッシュ!
ダンスレッスンでは、「次の振り付けはまだか!早く曲付きで踊りたい!」と気分が高まりました。校庭では息切れがするほど走り、撮影が終了した頃には外も暗くなっていて皆さんお疲れムードでしたね。
その中でスタッフの方々が「必ず素晴らしいミュージックビデオにします」と言っていたことがとても印象に残っています。
完成したミュージックビデオは、にかほの当たり前がすごく贅沢に表現されているなぁと思いました。住む人の優しさが「鳥海山から日本海に溢れてる!」って感じでしょうか。このミュージックビデオを通してたくさんの方が故郷を思い、特別な「にかほ」を見てもらえたらと思います。故郷のために自分もがんばります。俺の故郷、なかなかいいでしょ!!

■ 新田岳登がくとさん(仁賀保高校3年生)、新田大夏だいなさん(中学2年生)

撮影中は、振り付けや演出で細かな指示があり、難しいなぁと感じました。高校3年生の自分には「笑顔で思いっきりはっちゃけて」っていう指示は、ちょっぴり恥ずかしかったです。監督とのリモートでのやりとりも、この時代ならではという感じでした。
自転車が趣味で、自分が出たシーンの「ひばり荘」のあたりも、よくトレーニングで走っていました。あそこから見る景色は自分もお気に入りです。撮影した当日は、めったにないくらいのいい天気でした。あの景色は実はなかなか見れないんです。

進学を機に地元を離れるのですが、離れるとなってから、にかほの自然に改めてありがたみを感じたんです。自分が18年間育った場所に何か恩返しができればなと思っていました。大好きなこの土地を知ってもらえるような作品に携われてよかったです。

最初は、恥ずかしくて嫌だと思ったけれど、土田牧場のソフトクリームをごちそうしてもらえるということで引き受けました。撮影の時は、動きの指示が多かったけど、ソフトクリームが食べられると思ってがんばりました。撮り直しが続いて大変だったけれど、無事にソフトクリームが食べられて良かったです。

MVができて少し見るのが嫌だったけれど、僕と兄さんのところが大きく映っていたのでびっくりしました。自分が「いちじくいち」の役に立ててよかったです。

このミュージックビデオが、にかほの皆さんにとって誰かに自慢したくなる、誇りをもてるような作品に育っていくことを願っています。

ぜひミュージックビデオ「いちじく忘れない」をご覧いただき、にかほの魅力を味わってください!