11月5日午後7時、旧上郷小学校の理科室に20名ほどの参加者が集まりました。

これまでにも数回ワークショップを開催してきましたが、今回がはじめてという方もたくさん来てくださいました。

 今回のゲストは岡山県西粟倉村でバイオマスエネルギー事業と宿泊事業などを行う株式会社sonraku代表の井筒耕平さん。

にかほのほかにでも宿泊施設の機能を持ちたい、という声があがっていますが、西粟倉村からどんなヒントが得られるのでしょうか。


井筒耕平(いづつこうへい)さん

株式会社sonraku代表。岡山県西粟倉村で「あわくら温泉元湯」と木質バイオマス事業、香川県豊島で「mamma」を運営しながら、再エネ、おふろ屋、やど屋、ローカルベンチャー育成の分野において、全国各地でコンサルティングを行う。共著に「エネルギーの世界を変える。22人の仕事(学芸出版社)」「持続可能な生き方をデザインしよう(明石書店)」など。博士(環境学)。


井筒さんの住む岡山県西粟倉村とは、
鳥取県との県境にある林野率95%という山の中にあり、人口1,480人という小さな村です。
かつて市町村合併が盛んにおこなわれた頃、西粟倉村はその流れに乗らず、村として自立する道を選びました。

 自立するために、西粟倉村が掲げた理念は2つ。

ひとつめは「百年の森林構想」。村の森林の約8割は人工林で、50年前から大切に守られてきました。その森をこれからの50年間も大切に育て、百年続く森林にしよう、と官民が想いをひとつにし、次の世代にも村の自然や林業を守るための事業を2008年に始めました。

ふたつめは「ローカルベンチャー」を創造すること。村の資源を活用し、村で起業する人を支援する取り組みをおこなってきました。地域おこし協力隊の制度を独自の方法で活用するなどし、現在は30社以上のローカルベンチャーが活躍しています。

これらによる変化は10数年経った今、目に見える形で表れており、15歳以下の人口はV字回復、地価も10年前の2倍にまで上がったといいます。

ローカルベンチャーのひとつである株式会社sonrakuが西粟倉村でおこなっているのが、バイオマスエネルギー事業。バイオマスエネルギーとは生物資源を燃料として使用して得るエネルギーのこと。普段私たちが生活に使う主な燃料は灯油ですが、灯油を買うのに支払うお金は、原油国である中東の国に流れていきます。一般に、人口1万人の灯油使用によって15億円ものお金が動くそうです。

 灯油の代わりに村にある木材を燃料として使えば、そのお金は村のなかで循環することになり、自立のための手段となります。株式会社sonrakuでは薪ボイラーを利用した熱供給をおこなっています。

また、その薪ボイラーを利用した温泉宿・元湯の運営もおこなっています。冷泉が湧く西粟倉村ではこれまで大量の灯油を利用して水を温めていましたが、薪ボイラーを導入することによって、村のなかでの循環が目に見える形になりました。

 宿泊施設は職人さんとスタッフでDIY。当時は珍しかった「こどもと一緒に泊まれるゲストハウス」として独自のコンセプトのもと制作されました。

バイオマスエネルギー事業では、灯油より値段が高いとなかなか利用してもらえず売上が上がりにくいという課題があったり、宿泊事業では労働生産性が一次産業に次いで低いことから苦労もあるそうですが、会社としての売上は現在約8,000万円。村の自立に大きく貢献しています。

 西粟倉村では、100社のローカルベンチャーの起業、そのうち10社で1億円以上の売上を達成することを目指しています。

 他の市町村でも活動したことがあるという井筒さんによると、西粟倉村は「動きやすい」ところだそうで、その理由は行政にあるといいます。

 西粟倉村役場は社会課題への意識が高く、ベンチャー企業並みのスピード感で動いている、という行政には珍しい特徴があります。「百年の森林構想」や「ローカルベンチャー創造」などからも見て取れるように、将来を見通して今必要なことを考え、現存の価値観にとらわれずに動いている様がわかります。

また西粟倉村では住民・行政・移住者がフラットな立場であることも、ローカルベンチャーとしての動きやすさに繋がっているそうです。以前に活動していた市町村では「出る杭は打たれる」というような、移住者に対する敵視のようなものがありましたが、西粟倉村ではそれがない。むしろ移住者に対しては期待が寄せられ、応援してくれる雰囲気があるそうで、それが移住者にとっては良い緊張感になる、といいます。

また西粟倉村のローカルベンチャーには「こだわらない」と「結果を出す」というキーワードがあります。

 外から来た人が地域で新たなことを始める際にとらわれてしまいがちな型に「こだわらず」、自由にやっていいかわりに「結果を出そう」というもの。

その型とは、例えば地域で活動する以上地域にある資源を活用しなければならない、地域に定住しなければならない、地域の人たちと合意形成をしなければならない、など。

たしかに地域で事業を行う際にこれらの条件を課してしまうと、動きにくくなる場合もあるかもしれません。西粟倉村ではそんな心配不要。結果さえ出せば自由にやっていいのです。

 井筒さんは「成功させようと思ったら結局条件も満たすことになっているんだけどね」と笑っていらっしゃいましたが、はじめから型にがんじがらめになってしまうのと、やっていくうちに自然と満たしていた、ではやりやすさが違うと思います。

 外の人を受け入れるからには、活動するフィールドを整える。西粟倉村からはそんな姿勢が感じ取られます。村が外から来る人に「依存」するのでもなく「嫌煙」するのでもなく、まさに「共存」を目指す姿だなと感じました。


「まだまだ村に課題は多い」と語る井筒さんでしたが、全国から注目が集まる西粟倉村は、やはり時代の先を行く先駆者でした。

 「村として自立する」という視点は、ほかの場所でも大切になってくる考え方ではないでしょうか。

 自立するためには何が必要で、そのために何ができるのか。これから「にかほのほかに」をつくっていくなかでも、考えていきたいテーマだなと感じました。


 「にかほのほか」の地域からアイデアをもらおう!というワークショップは今後も開催されます。次回は11月26日午後7時〜。たくさんの方とアイデアの交流ができればと思っています。旧上郷小学校でお待ちしています!