「にかほのほかに」内にある「スタジオ129」で制作しているラジオ番組「あなたのおばんです」。にかほ市に暮らす人たちが交代でパーソナリティとなって、自由なテーマでトークするこの番組に、13番目のパーソナリティとして登場してくださった小野田セツ子さん。そこで語られたドラマチックな人生物語は、リスナーの心を打つものでした。

「仕事は生き方そのもの」と語り、生き生きと暮らす小野田さんに、生き方のアドバイスを伺うべくご自宅にお邪魔しました。

小野田セツ子さん。東北初のグリーンコーディネーターとして植物を使ったデザインや講演・執筆活動を行う。

小野田さん
まずお茶を淹れましょうかね〜。

― わあ〜きれい〜 ! なんのお茶ですか?

小野田さん
これはハーブのブレンドティー。ローズマリー、サフラワー、とうもろこしのひげ。

― とってもおいしいです !

小野田さん
よかったね〜。おいしいということは身体が欲しているということだからね。ローズマリーやとうもろこしには胃腸を整える働きがあるから、腹痛のときにもいいのよ。
この前も、うちに毎月来るはずの人が、今月はなかなか来ないなあと思っていたら、「最近ずっとお腹が痛くて、遅くなりました」って腰を曲げてやって来たの。数年前にがんで胃を全摘出した人で、一気にたくさん食べてしまうと腸が詰まってしまって腹痛を起こすんだって。

そのとき、このハーブティーを出したの。そうしたら一気に3杯も飲んで。話しているうちに背筋もぴーんと伸びて、「すっかりよくなりました !」って元気になったの。
古代ギリシャの医師だったヒポクラテスも、紀元前400年にハーブを処方していたというからね。身近にあるものが民間療法として使われているのよね。

自宅の畑で収穫した植物を乾燥し、ハーブティーとして楽しんでいる。写真は菊とローズマリー。

― すごいですね。身近にあるものを生活に取り入れるのも工夫次第なんですね。お家のなかも植物がたくさんあって、癒されます。


自信を持ってハッタリ

― 小野田さんが植物の仕事をしようと思ったきっかけはなんだったんですか?

小野田さん
夫が35歳で亡くなって、わたし一人で3人の子どもを育てていかなくちゃいけなくなったの。それから、ホテルの副支配人の仕事をしていたんだけど、働いているうちに「この仕事わたしじゃなくても誰でもできるし、長く続ける仕事じゃないな」って思うようになってね。

それで、自分に何ができるかなって、できそうなこととか好きなことをノートに書き出してみたのね。
そういえば子どもの頃、お花遊びはよくしてたなーって。花の色素で紙を染めてみたり、水のなかに山椿を入れて凍らせてみたり。

でも、植物の仕事って何かないかなって周りの人に相談してみても、花屋くらいだって言われて。それじゃないよなって思ってたの。

そんなときに出会ったのが、「花と緑のインテリア」という本でね。
有名な建築家の先生たちがつくった建物のなかに、見たことのないような素敵な植物が飾られていてね。今思うと、ドラセナコンシンネトリカラレインボーなんだけど(笑)。
それを見た時に身体中に電気がビリビリって走ったの。そんなこと、後にも先にもあのときだけ。

グリーンコーディネーターという職業を知り、本に記載されていた「光藤タカ子」先生の名前を見て電話をかけた小野田さん。「秋田でこの仕事は10年早い」と断られながらも、諦めることなく先生の教室に通い、東北初のグリーンコーディネーターとなった。(詳しくは「あなたのおばんですvol.13」)

― そういう運命みたいなこと、あるんですね。

小野田さん
人はね、求めていると与えてくれる人がどこかにいるんだよね。
こういうのやりたいとか、こんなのあったらいいなとか思っていると、誰かから「こんなのどう?」って見せられるっていうかね。

― その出会いから奇跡の連続を経て、東北初のグリーンコーディネーターになったんですよね。どのように仕事をはじめられたんですか?

小野田さん
当時、秋田駅前にファッションビルがあったのね。若者は集まるし、駅前で人もたくさん通るし、自分の仕事をここからスタートさせたいと思って、乗り込んだの。
「自分はグリーンコーディネーターということをしていて、この建物全体を、植物を組み合わせることで癒しの空間としてデザインしたいんです」って言ったのね。

それでデザイン画を描いて持って行ったんだけど、「忙しくてこういうのは見てられない」って言われてしまって。
「なんで主婦だったのにこんなことで泣かされなきゃいけないんだろう」って泣きながら家まで帰ったのを覚えてるわ。

小野田さん
その後も、何度かチャレンジしたけど断られて、もう諦めようと思ったときに、担当の方に「もう一度チャレンジしてもいいよ。でもこれはあなたのためだからね。自分のためにやるんだよ」って言われたの。
そのときに「このビルのコンセプトとか今年のテーマとかもデザインに反映させてよ」とも言われてね。そういえばそれまで、どんなコンセプトなんですか?とか聞いてなかったのよ(笑)。

それでビル自体のコンセプトや季節ごとのテーマなんかを踏まえた上で、伝えたいことをシンプルにまとめて、デザインを持って行ったの。
そうしたらようやく全部に目を通してもらえて、「100万円でやってみて」って、やらせてもらえることになったの。
「100万円もらえるんですか !」ってうれしくなったんだけど、1年間にかかる経費を考えたらぜんぜん足りないのよ。

それで光藤先生に電話で相談したの。そうしたら先生がね、
「最初の仕事はタダでもやらなきゃいけない。そこで素敵な仕事ができたら、それが自分の名刺代わりになる。チラシも何も作らずに自分の宣伝ができるんだから、すべてをかけて全力でやりなさい」って。

― なるほど…。一線で活躍されている先生の言葉は説得力がありますね。

小野田さん
お金の計算なんて30年早いって言われたわ(笑)。
だれもやってない仕事を草分けでやるんだから、30年はかかる覚悟をしなさいって。

30年なんてあっという間だったけどね(笑)。

小野田さんのイラストが描かれたハンカチ。注文を受けて一枚ずつ手描きする。

― そこからグリーンコーディネーターとして歩み始めたんですね。

小野田さん
「秋田駅前のファッションビルのデザインをしました」って言うと、周りがどんどん仕事を紹介してくれるようになってね。「秋田にそんな人いたんだ。ウェディングのお花もお願いできる?」なんて。

でも、そんなのやったことないのよ。ファッションビルをやったときだって、デザインなんてやったことないの。それでも「やります !」って。
新しいことをやろうとするときって、ハッタリって大事よ。はじめのうちはそれしかないの。

光藤先生にも、「ハッタリって、人を騙すことになりませんか?」って聞いたことがあるのね。そしたら、
「病院に行って、お医者さんに『わ、わたし、あなたがはじめての患者さんです』なんて言われたら、怖くて診てもらえないでしょ。
患者さんの前に座ったときから、お医者さんとして信頼関係ができるんだから、それと同じ」って言われたの。

「自信を持ってハッタリ」が大事なのよね。その上で、追いつくくらいの努力をしないといけない。


秋田から全国に届けたい

― 光藤先生には「秋田でグリーンコーディネーターは早すぎる」と言われたそうですが、実際やってみてどうでしたか?

小野田さん
はじめのうちはね、「グリーンコーディネーターやってるんです」って秋田の人に言うと、「ゴルフ場の芝の張り替えやってるんだか?」なんて言われたりして、わかってもらうまでに時間はかかったね。先生が、早すぎると言った意味もわかった。

でも、秋田でしかできないグリーンコーディネーターの仕事もあるんじゃないかなって思ったのね。
都会のビルのなかで空間をデザインするのとはまた違って、秋田では窓を開ければ緑があるじゃない?それを活かそうと思ったの。実際、エクステリアっていう、外観に植物を活用するデザインは、秋田で先駆けて始められたし。

それにね、秋田から全国の人に伝えたいなって思いは強かった。
自分が秋田にいるからって、秋田の人に伝えようっていうんじゃなくて、秋田から全国に伝えようって気持ちしかなくてね。なんで情報は、東京から地方に送られてくるばっかりなんだろうって不思議だったの。

小野田さんが毎月発行している「草だより」。季節にあわせて、自分の身体を自分で整えるためのヒントなどが記されている。2020年11月には第156号を迎えた。

― それで草だよりを始められたんですか?

小野田さん
そうね、はじめは親戚とか友達に勝手に送ってただけだったんだけど、それを毎日新聞が取材してくれたの。そうしたら、ダンボール一箱分くらいの手紙が全国から届いてね。「素晴らしい取り組みですね」「わたしにも送ってください」って。

それから一度は辞めた時期があったんだけど、再開してから12年くらいは続けているわね。はじめは30人くらいだった会員が、今では250人にもなったのよ。

会員は女性が多いから、今の時期どんなことを考えて、どんなことに困ってるかなって考えて、季節に合わせた情報を書くようにしてるの。
「離れて暮らす子どもたちに送ってください」っていう人や、「友達への誕生日プレゼントとして送ってください」とかって人もいたりね。最高齢は94歳で、「字は読めないけど絵だけ見てます。死ぬまで取り寄せます」って言ってくれてるの。

― 光藤先生にたくさんお弟子さんがいたように、小野田さんを慕う人もたくさんいるでしょうね。

小野田さん
よく「グリーンコーディネーターの後継者はいないのか?」って聞かれるのよ。でもわたしは、誰もがグリーンコーディネーターになればいいって思ってるの。生活に植物を取り込んで、素敵な室内空間をつくることを、みんなができれば素敵じゃない?
アイデア次第でいろんなことができるんだから、そういう生き方をみんながするようになればいいなって思う。

仕事部屋である「ありのま間」に飾られたテーブルランナー。古い着物の帯に植物の絵のイラストを描いたもの。写真は秋仕様のもので、コスモスやあけびなどの草花が部屋に彩りを添える。ほかにも小野田さんがイラストを施したものがたくさん。

仕事を選ぶことは生き方を選ぶこと

― 小野田さんは、向上心を持ち続けているところが本当にすごいと思います。活動の幅が広がっていくのも、ご自身の努力あってですよね。

小野田さん
「この仕事を選んでよかったのかな」って悩んだときにね、親に相談したの。「あまりお金にならない仕事だから、30年くらいお金持ちになれないのよね」って。
そうしたらね、「苦しいときは勉強するしかないでしょ」って言われたの。「お金のない人は勉強しなきゃいけないって昔から決まってるんだ」って。

そのときは、「勉強したらお金が降ってくるわけでもないのになんで」って思ってたんだけど、今になるとわかるのよ。勉強してきたことが、今になってお金という形で返ってきたし。
それに、学生のときは何を勉強したらいいのかわからなかったけど、社会に出てからはおもしろいと思えることがいっぱいあるしね。

― グリーンコーディネーターという生き方を選んで、良かったと思うのはどんなときですか?

小野田さん
普通の主婦でいたら出会えないような人とたくさん出会えたことね。その人たちから学ぶチャンスをたくさんもらってきたから。

これまで何一つとして同じ仕事はなかったし、その経験がわたしにとってはかけがえのない財産。これがあればどんなことだって乗り越えていけるし、自分に自信をくれる。

仕事って、1日のうちで最も長い時間関わっているじゃない?だから、わたしにとっては仕事を選ぶことは、生き方を選ぶこと。いい仕事にめぐり逢えたから、わたしはラッキーな人なんだなって思うの。

― 小野田さんのような生き方、かっこいいなと思います。

小野田さん
わたしのすごいところと言ったら、長く続けることだけよ(笑)。

でもね、人にこうして言ってもらうことは素直に受け止めようって決めたの。
以前は、褒められることはうれしいけど、「まだまだですよ〜」とかって言ってしまってたの。でも、「本当ですか?ありがとうございます」って、ジョークでも言うようにしたのよ。

― 素敵なお考えですね。わたしもせっかく褒めてもらっても、自分に自信がないから否定してしまったりして。
小野田さんを見習って、冗談でも「ありがとうございます !」って言おうと思います !

(文・國重咲季)