4月には、2度目の春を迎える「にかほのほかに」。この1年は放送室をリノベーションしたスタジオ129いちじくから、インターネットラジオや動画配信を通してにかほの情報を発信してきました。

そして同時に、建物の内側も少しずつ、でも着実に変化し続けています。
その内装工事に力を貸してくれているのが、「TEAMクラプトン」。

にかほのほかにでは、昨年から机や椅子などの家具づくり、トイレの内装などのリノベーションを行ってきました。

TEAMクラプトンは、建築内装のリノベーションやイベント会場のデザインなどを行う、設計施工チーム。関西を拠点としながら、全国を飛び回り活躍中です。ゲストハウスや書店、飲食店など、これまでに手がけた物件は多数。
カフェスペースに併設するキッズスペース。カフェでくつろぐ親の目の届くところで、子どもたちが靴を脱いで遊ぶことができる。丸太や木の枝などの自然の風合いを生かしたデザイン。
本棚に並んでいる

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にかほのほかに図書が並ぶ本棚は、はじめてのワークショップで制作したもの。組み合わせ次第で印象が変わる。
鏡のある洗面台

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トイレの洗面台。上部は製材所で不要になった木材、下部は廃棄される予定だったタイルを組み合わせて、鳥海山をイメージした。

このように素敵な変化を遂げているにかほのほかにですが、じつは、この施工を手掛けたのはTEAMクラプトンのメンバーだけではないんです。一緒に施工したのはなんと、地元に暮らすみなさん!

これこそが、TEAMクラプトンの最大の特徴。DIYならぬ「DIT(Do it together)」をスローガンに、みんなで力を合わせて作業をしていくんです。

TEAMクラプトンが掲げる「DIT」には、どんな思いが込められているのでしょう?そして、にかほのほかにはどんな場所になっていくのでしょう?TEAMクラプトン・白石雄大さんに伺ってみました。


みんなでつくろう!が合言葉。TEAMクラプトンの「巻き込み型」リノベーション

白石雄大さん 愛媛県出身。TEAMクラプトン創設メンバーで、今回にかほのほかにのプロジェクトを担当。大学時代、空き家物件を友人と一緒にリノベーションし、住み開きスペースとして運営。卒業後にTEAMクラプトンを結成し、現在は全国の現場を飛び回る日々。

僕たちは平たく言うと内装工事をやっているんですが、一般的な工務店のような仕事とはちょっとやり方が違います。頼まれたものをただ作るのではなくて、お施主さんも、そのまわりの人たちも巻き込んで「一緒に作っていく」というやり方をしているんです。

だからプロジェクトを始めるときにまず聞くのは「お施主さんが現場で一緒に作業できるのはいつですか?」ということ。

というのも、「どんな場所にしたいか」という思いや夢を持ってるのは、そこを使う人。だから、僕たちがただ場所を作って用意する、というのには違和感があるんです。
建築として最低限の機能を満たしていればいいんじゃなくて、お施主さんがどうしたいかを聞きながら、「こうしたらもっとおもしろくなるんじゃない?」と話しながら作りたいんです。そうすることで、思いの込もった建築になる。

それに、作る過程ってとても楽しいんですよね。 僕はいつも、「文化祭の準備をずーっとしてるような感覚」と例えるんですが、ハレの日のためにみんなで頑張る感じ。
建築では、大きくて重いものを運んだり、同じ作業を地道にやり続けることもたくさんあります。業者さんに頼めば、そんなことはやらずに済むし、楽にできるんですが、大変なことをみんなで乗り越えると熱くなれるというか。そういう瞬間って大人になるとあまりなかったりするので、楽しいです。

屋内, テーブル, 人, キッチン が含まれている画像

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駅のホームを歩いている人

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それに、人がたくさんいたほうが、おもしろいものができるんです。

例えば、絵を描ける人がいたら壁に描いてもらうとか、裁縫ができる人がいたらクッションカバーを作ってもらうとか。そうやって、集まった人の得意なことを探してお願いしたり。

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子どもの遊具には、地元の高校生が描く絵をアクセントに。作業中の会話のなかで、絵が得意とわかりお願いすることに。

ほかにも、単純な作業をひたすら続けていくことでおしゃれなデザインができたりもするんです。トイレ前の「鱗ばり」の壁とか、受付カウンターの「こけら葺き」の屋根なんかは象徴的ですよね。こういうのは、人が集まるからできること。

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アクセントになる壁の一部は「鱗ばり」という手法で施工した。数種類の板を用意し、それをひたすらビスで留めていく。作業を行う人によって板の並べ方に差があることで、個性的な壁に仕上がる。
斧を使って丸太を切り出してこけら(細い板)状に。それを受付カウンターとなるいちじくをモチーフにした小屋の装飾として貼り付けた。木目が味わい深いデザインを作る。

参加してくれる人たちの得意なことを引き出しながら、それが積み重なって、建物ができあがっていく。そんな感覚を、作業を通して共有できたらいいなと。それが「DIT(Do it together)、みんなでつくろう!」なんです。

だから、僕たちTEAMクラプトンの仕事では、リノベーションしながら一緒に作業する人たちとコミュニケーションをとって仲良くなること、参加者の個性を引き出すことが、施工と同じくらい大切なんですよね。


生き物のような施設をつくりたい。TEAMクラプトンへの”無茶な”お願い

TEAMクラプトンを仲間に迎え入れるきっかけをつくったのが、にかほのほかにプロデューサー・藤本智士さん。TEAMクラプトンにどんなことを期待しているのでしょうか。

藤本さん藤本さん

僕が目指すのは、完成された施設を「はい、どうぞ」と用意するのではなく、関わる人によって変化し続けるような、生き物のような施設。そして、ここに関わってくれるみんなの夢を叶える場所であってほしいんです。

だからこそ、まちのみなさんに関わってもらえる余地、関わりしろを用意して、この施設ができあがっていく過程もみなさんと一緒に楽しんでいきたい。

そういうわけで、「DIT」が得意なTEAMクラプトンの力を借りて「人を巻き込む建築」を作りたいし、TEAMクラプトンが、ここでしたいことを残していってくれるのも楽しみにしてます。

でも明らかに、これは大きな戦いです。

「ここにどんなものがあったらいいかな」と想像しながら、「ここでこんなことやってみたい!」と夢を持ってくれる仲間との出会いを探しながら進んでいく。

それって周りの人たちからしたら、とても理解してもらいにくいことなんですよね。やっぱり目に見える形にならないと伝わらないことも多いから。

ということでTEAMクラプトンには、まずはみんなが関わりたいと思うような楽しい場を形にしてもらうことから始めてもらっているんです。TEAMクラプトンのみんなには難しいことをお願いしているけど、一緒に成長していければと思っています!

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ダイアグラム

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2020年度には、1階部分は人が集まれる場所に。職員室はカフェスペースに生まれ変わり、外構部分にはウッドデッキも併設。鳥海山を目前に、ゆったりと語り合える。

みんなが主役。にかほのほかにだからできるDIT

来年度は3階に宿泊できる部屋をつくったり、グラウンドにツリーハウスをつくったりと、わくわくするような妄想はさらに膨らんでいます。にかほのほかにで「こんなことがしたい!」と夢を持つ仲間集めも同時進行中。これからもTEAMクラプトンの力を借りながら、リノベーションは続きます。
雄大さんに、にかほのほかにのこれからのことを聞いてみました。

にかほに何度か訪れているなかで知り合いも少しずつ増えてきたんです。年齢の近い漁師の友だちとも出会えました。

そうやって、僕たちが声をかけられる知り合いも少しずつ増やしていきたいですね。とにかく現場に来てもらって、そこからがスタート!

キッチンで作業をしている男性

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獲れたての海産物を差し入れしてくれた、まちの漁師さん。ワークショップを通じてTEAMクラプトンと出会い、今ではにかほ入りの度に交流する仲に。

ただ、このにかほのほかにの取り組みは、僕たちにとっても初めての試みなんです。僕たちがこれまで手掛けてきたのは、飲食店やゲストハウスなど、誰が主役なのかはっきりしていて、お施主さんがどうしたいのかをベースに進めていくものがほとんどでした。

でも、ここは複合施設であり、行政の施設ということもあって、誰がここを使うのか、誰がお施主さんなのかがはっきりしない。でも、それってきっと、ここに来る全員なんですよね。来る人みんなが主役。

だから僕たちは、ここに来る人たちが、にかほのほかにに対する思いを1℃でも2℃でも上げられるような、思いを乗せやすくする工夫がいつも以上に必要だと思っています。

屋外のテーブルで食事をしている人たち

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ワークショップの日の昼食はみんなで。これもTEAMクラプトンの工夫のひとつ。外に机や椅子を運び出して、晴れ渡る鳥海山の下で。


これから僕たちもにかほの現場を通して、まちのみなさんと、今後も繋がっていくような仲間になれたらいいなと思っています。

それに、通っているなかで、僕はにかほという場所がすごく好きになってきたんです。とくに九十九島の風景が気に入ってます。郷土資料館で地形の成り立ちを見て、なんだかロマンがあるなあって。にかほに来た時は、九十九島を見に一人で散歩したりします。あとは、にかほで食べたもずくが忘れられないです!

にかほのほかには、秋田での「帰る場所」になるんだろうな。そんな未来が楽しみです。

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リノベーションワークショップは3月6日(土)7日(日)に開催!
気になった方は、こちらから詳細をご確認のうえ、ご参加ください!

(文・國重咲季)