こんにちは!高舘翔太たかだてしょうたと申します。わたしは、2020年4月より、にかほ市地域おこし協力隊として「にかほのほかに」の企画・運営に携わらせていただきました。そして、この3月をもって、わたしは協力隊を卒業します。
一年間を振り返りながら、ここでの活動を通して感じたことをお伝えしたいと思います。

インタビューで触れた「日常」

わたしがにかほに来てからの業務は、TEAMクラプトンのみなさんとのリノベーション、町の方へのインタビュー、ラジオ収録、SNSの運用、ワークショップの企画・運営から、オンライン番組の制作・配信……。
おそらく、一般的な企業に就職していたのでは経験できなかったような、業種を越えた様々なことをさせてもらいました。

TEAMクラプトンのリノベーション
スタジオ129いちじく
2020年09月13日開催 にかほのほかに教室03「にかほをPRする動画づくりに参加しよう!〜映える身体の動きを知る〜」

にかほのほかにのHPでご紹介しているインタビュー記事では、この町に暮らす人の魅力をお伝えしてきました。
そこでは、「日常」というものの尊さを感じたように思います。

わたしたちは今、「日常」が揺れ動く時代に生きています。
14歳のとき、東日本大震災が起きました。当時は中学2年生で、東京にいました。数学の授業中だったのを覚えています。津波でたくさんの方が被害にあい、福島第一原子力発電所の事故も発生するなど、世界的にも異例の災害となりました。
そして、大学を卒業するという22歳の時、新型コロナウイルスが発生。家を出る時は必ずマスクを持参するようになりました。今でも、「新しい日常」をどう生きていくのか、世界中の人が考えを巡らせています。

そして、日々当たり前に思っていたことにも終わりがあるということや、突然崩れることがあるということを身を持って経験してきました。

そういった状況のなかで、インタビューを通してにかほのみなさんの暮らしに触れました。

「ファミリーレストラン123ひふみ」の二代目マスター村上拓哉さんへのインタビューでは、この店の看板メニューである担々麺の話を伺う中で、にかほ市象潟きさかたで長年愛されてきた「123」の歴史や、人口が減りつつある町で飲食店を続ける二代目店主の覚悟と決意を知ることができました。
「にかほで受け継がれる『ファミリーレストラン』の担々麺?!」

また、普段は保育士をされている佐藤公さんへのインタビュー記事では、
1200年の歴史をもつ国指定の重要無形文化財「小滝こだきのチョウクライロ舞」や、
古くから伝わる山伏神楽やまぶしかぐら鳥海山小滝番楽ちょうかいさんこだきばんがく」で舞手であり歴史を受け継いでいることを伺いました。そんな公さんが、にかほという土地を思い切り楽しんでいること、そして、にかほでこれから挑戦したいという夢を話してくださいました。
「にかほを楽しむ男には、『番楽』と『レゲエ』のビートが流れてた」

これらのインタビューを通して感じたのは、どんな人にもそれぞれに信念や魅力、生きてきたバックグラウンドがあるということ。
ある人の人生を垣間かいま見た時、日々が積み重なってできた今日という一日に美しさを感じます。

誰の目にも触れられてこなかったもののなかにも、美しくて、尊いものがある。どんな人にも素敵なところがきっとある、まだ聞いたこともない熱い想いがそこにはあるかもしれない、そんなことを、記事を作ることを通して感じることができました。

誰のどんな“好き”も否定されない、否定しない。

「あなたのおばんです」というインターネットラジオ番組の制作にも関わりました。
「あなたのおばんです」は、にかほ市民のみなさんが交代でパーソナリティを務めるトークリレー番組です。パーソナリティに指名された方が、次のパーソナリティを指名して……と数珠じゅずつなぎ方式で作っており、トークテーマは完全フリー。自身の好きなことや今考えていることを発信してもらっています。

そのトップバッターとして選んでいただいたのが、わたしでした。
そこでは、わたしが好きな「サンリオ」の話をさせてもらい、自分自身の中のサンリオのルーツから、サンリオピューロランドで公演されているパレードの話、「かわいいだけじゃない」サンリオピューロランドの魅力を伝えさせていただきました。

あなたのおばんです vol.01「高舘翔太さんが語るサンリオの魅力」

「あなたのおばんです」はそもそも、「人にはいろんな考えがある。町にはいろんな人がいる」という多様性を伝えていきたい思いが根底にあります。

昔話を子どもたちに伝えるボランティアをされていて、実際に番組内でも方言を生かして昔話を披露してくださった、齋藤みどりさん

営んでいる飲食店のことや、ご自身の楽観的な生き方のそのルーツや考え方を話してくださった、佐々木久美さん

外の人から教えてもらって気づいた町の魅力や、営んでいる車の総合工場のこと、仕事に対する姿勢を話してくださった、齋藤啓太さん

こんなふうに、出演するのは、にかほに住んでいる方ですが、パーソナリティの年齢や職業はバラバラ。みなさん、それぞれのキャラクターを思いっきり表現してくださっています。

でも、わたし自身、初めは「好き」を発信することには抵抗がありました。というのも、「好き」は自分の中の大切な部分なので、それを誰かに傷つけられたくないからです。

けれど、このラジオは「みんなの違いを尊重する」がコンセプト。そのおかげもあってか、一歩踏み出して発信することができました。ラジオを通して「好きなことを好き」と素直に言える場があったからこそ、町のみなさんにも自分の大切にしていることをすんなりと受け入れてもらえたようにも思えます。

実際、「サンリオ」をテーマにラジオに出演させていただいたり、ピューロランドで振付をしたことのある方と仕事をさせていただいたり、町の方からキティちゃんのグッズを譲ってもらったり……と、たくさんのチャンスをいただくことができました。

キティちゃんの言葉で好きなものがあります。

「誰のどんな”好き”も否定されない、否定しない。そういうふうになったらいいな」
ハローキティ公式YouTube「ハローキティのコメント返しVol.4」

「僕たちはみんな凸凹(でこぼこ)で同じじゃないけど、それこそパワー」
サンリオピューロランドミュージカルショー「KAWAII KABUKI~ハローキティ一座の桃太郎~」より

みんなの「好き」や「得意」にみんなで寄り添って、否定や批判をすることなく、むしろ背中を押していく。「にかほのほかに」からそのムーブメントを作っていけたらいいなと思うし、それはこの一年間心がけてきたことです。「にかほのほかに」が、好きを否定せず、それぞれの違いこそがパワーなのだ、と伝え続ける場所になることを願っています。

こころが動くエンターテインメントを作りたい

そして、携わらせていただいた仕事の中でも、特に印象的だったのは「いちじく忘れない」のミュージックビデオ制作です。

「にかほ市で育ついちじくを軸ににかほの魅力を発信しよう」と始まった「いちじくいち」。2020年は例年のように会場を設けての開催はできませんでしたが、「何か、まちのみなさんと一つのものをつくりたい!」という思いから、いちじくをテーマにした楽曲「いちじく忘れない」のミュージックビデオを、町のみなさんと制作することにしました。ビデオの中には、町のみなさんの姿とともに、にかほの美しい風景や名所も多く登場します。

このMVの振付は、いちじくを収穫する動きや、いちじくを加工して甘露煮かんろににする工程の動作をもとに制作。実際にいちじくの生産や加工をされているみなさんなど、総勢130名のにかほ市民の方にご参加いただきました。
「にかほ市民130名が参加!『いちじく忘れない』MV制作の裏側 大公開!」

振付、編集、監督をしてくださったホナガヨウコさんが、サンリオピューロランドの振付を担当したことがあると知った時には、運命的なものを感じたのを覚えています。

初めに「この楽曲でミュージックビデオを作るのはどう?」と企画を聞いた時は、本当に実現できるとは思ってもみませんでしたが、地元のみなさんのご協力の甲斐かいあって、素晴らしい作品が完成しました。

完成後は、地元のみなさんと一緒に鑑賞をしました。ビデオが終わった後には、静かな沈黙の時間が流れ、噛みしめるように作品を味わいました。涙する方も多くいました。

勘六かんろく商店で甘露煮を製造するお母さん方からは、「撮影がとっても楽しかった。生きていてよかった。ありがとう」と言われ、あぁこれを作ってよかったなぁと思いました。出演をきっかけに、にかほのほかにのことを知ってくださった方も多くいて、そこから関わりを持ってくださる方も多くなったように感じます。

MVにご出演いただいた勘六商店のみなさんと

そして、このミュージックビデオの制作や、それを披露した「オンラインいちじくいち」の番組制作を経て改めて、自分はエンターテインメントが好きなんだと再確認しました。

誰かを感動させるエンターテインメントにもっと携わっていきたい、もっと学びたいという思いが強くなりました。にかほのほかにで学べることも、もちろんまだまだたくさんありますが、よりエンターテインメントを専門に学ぶキャリアを歩みたいと考えて今回1年を節目に卒業することを決めました。

エンターテインメントの中でも、わたしはそれを鑑賞した人に何か変化が起きるようなものが好きです。例えばサンリオピューロランドのエンターテインメントは、「みんななかよく」というメッセージが根底にあり、戦争体験をした創業者の思いを、エンターテインメントという形で伝えています。

にかほのほかにでは、「にかほの良さを、ほかに伝える」「にかほもいいけど、ほかもいい」というメッセージを軸に取り組んできました。
エンターテインメントを通じてわたしはこれからも、社会に対して小さなアクションを起こすものづくりができたらいいなと思います。

おわりに

次のステージにいくことを町の方に伝えるのは、緊張しました。「にかほが嫌いで出ていくんだ」と勘違いされてしまうかもと思ったからです。けれど、予想とは裏腹に、町の方は次への挑戦を応援してくれて、背中を押してくださいました。本当にありがたいことです。そして離れることを機に、自分のことを多くの方が気にかけてくれていたこと、大切に思ってもらえていたことを身にしみて感じることができました。この場をお借りして、お世話になったにかほのみなさんに感謝の気持ちをお伝えします。

例年にない大雪を経験したり、田舎と都会のカルチャーのギャップに戸惑ったり、秋田で一年暮らすなかで、確かに大変なこともありましたが、ここで暮らしたことは、わたしにとって大きな自信となりました。大学時代も、いわゆる「地方創生」や「人口減少問題」を学ぶことはありましたが、やはり知識だけでは補えない、体験することの大切さを改めて痛感しました。そして、暮らすことでまた一段深いところにもぐることができ、より広い世界を知ることができたように思えます。

わたしは東京出身というのもあり、これからは都市と地方がもっと混ざり合っていってほしいな、この間にある深いギャップが埋まっていってほしいなと思っています。時代は前向きな方向に向かっていると思っていて、多拠点居住を始めとする新しい価値観や、リモートワークの盛り上がりからは、都市と地方というものが二項対立的なものから、うまく手を取り合って、強くなっていくという追い風を感じます。

ここ、にかほで触れた「日常」や、ここに暮らす人々のあたたかい気持ち。
「好き」を自由に安全に表現できる場の大切さ、「好き」を否定しないことの大切さをこれからも自分の中に持って、わたしは新たな旅へと出発します。

にかほのほかにが、みなさんに愛される場所になることを願って。
ありがとうございました!