秋田県にかほ市でお父さんと共に、黒毛和牛の繁殖農家を営む渡邊強(わたなべつよし)くんは若干22歳。

彼のInstagramから、その日々に興味津々だった僕は、春先のある日、思い立って彼のもとを尋ねてみました。

https://www.instagram.com/__tuyoponusi_/?hl=ja

こんにちは。にかほのほかにスタッフの藤本智士です。

いきなりですが、みなさんは牛を育てる農家さんには大きく2種類あることをご存じでしょうか。母牛を飼育して子牛を産ませ、その子牛を売る「繁殖農家」と、子牛をセリ市場で買い付けてお肉用に太らせる「肥育農家」

強くんのお家は繁殖農家さんです。日々、元気な子供を産んでくれる母牛のお世話をしています。

「親牛から子牛を産ませて、その子牛を約9ヶ月育てて家畜市場で売るのが仕事です。一方、肥育農家さんは、約20ヶ月も育てて牛を太らせます。なので僕らの仕事は肥育農家さんに高く買ってもらえる健康な子牛を生産することです」

その健康な子牛を産み育てることの裏にはきっと大変な苦労があるはず。僕自身これまで、肥育農家さんには何度か取材に行かせてもらったことがあるのですが、繁殖農家さんの取材は初めて。個人的に、そのお仕事にとても興味を持ちました。

「普通であれば牛も交尾をして子孫を増やすんですけど、家畜の牛はほぼ人工授精で子を増やします。で、いつ種付けをするのかと言うと、発情行動が現れた頃。ちなみに、妊娠していない雌牛は21日のサイクルで発情するんですけど、エサの管理や、夏場の高温ストレスなどに左右されて、この発情がスムーズに来ない場合があるんです。だから繁殖農家というのはこの観察がとても大事な仕事の1つなんです。1頭1頭の体調を毎日見極めながら大切に育てています」

人口受精であることに、どこかモヤモヤした気持ちを抱いた僕ですが、昭和初期までは交尾によって牛を生産していた時代があったそうです。しかし交尾によって病気にかかる牛が増え、これを防ぐ事から人工授精技術が採用されるようになったということ。その時代その時代の考えのなかで、繁殖方法もまだまだ変化していくのかもしれません。

「無事に妊娠してもまだ安心できません。分娩時は、子牛が大きすぎたり、胎盤剥離、逆子などで、また産まれた後も、難産による心肺停止や親の育児放棄など、様々な事が起きるのが現実です。繁殖農家はなんとか事故を防ごうと必死に手助けをします。そうして子牛が立ち上がって乳を飲み出すとようやくそこで一安心できます」

繁殖農家さんの仕事について丁寧に説明してくれる強くんですが、彼の言葉にさらに熱がこもってきたのが、以下のお話でした。

「こうやって毎年一頭、生涯で7〜10頭もの子牛を産んでくれる母牛なんですけど、子牛を産んだ母牛は、経産牛と呼ばれて、一般的に出産回数が多ければ多いほど味が落ちると言われてるんです。だけど、牛肉の好みって変化してきてますよね。昔はとにかくサシ(脂肪)が多い霜降りが一番でしたけど、いまは健康志向もあって赤身肉や熟成肉なんかも好まれはじめてますし、最近は、黒毛和牛の経産牛は味が濃くてとても美味しいとも言われはじめてるんです。但馬牛の繁殖農家の田中さんという方は、経産牛ではなく敬産牛と名付けていて、とても共感します。」

強くんのような繁殖農家さんが何年も愛情を込めて育て、またそれに応えるように毎年子牛を産んでくれた母牛が、肉としては価値の低い経産牛と評価されてしまうことに、やりきれない気持ちになることは想像できます。

「うちの母牛たちも黒毛和牛なので系統としてはサシが入りやすい。それが何頭も子牛を産むことで程よいサシになるし、何よりうちは、他の農家と違って妊娠牛を60ヘクタール(東京ドーム17個分)もある放牧場で5月から11月まで放牧するんです。鳥海山のそばの広大な放牧地で健康的に伸び伸び育った母牛たちのお肉を、美味しく食べてもらうこと。それが僕のいま一番やりたいことなんです。」

その言葉に感動した僕は、にかほのほかにで協力させていただき、強くんが育てた母牛を美味しくいただく会を共同開催したいと提案しました。強くんと内容を詰めて、今年の夏に開催を予定しています。その詳細についてもまたこのブログでご報告するので、ぜひ楽しみにしていてください。

さてここで最後に、タイミング良く今年の放牧開始に立ち合わせていただいたときの写真を(冒頭の写真もそうです)いくつかご紹介して終わろうと思います。放牧場まで約6kmもある道のりを、自らの足で歩いていく牛たちの可愛いらしい姿と、美しい鳥海山をぜひ見てください。きっと、にかほという土地の豊かさも感じてもらえると思います。

朝の4時。寝坊しないかドキドキでした(笑)
月明かりが美しい朝。放牧地まで歩かせる前に、まずは一頭ずつ定位置につないでいきます。
今回放牧に連れていくのは6頭。
まずはボスを放し、そのボスに他の牛たちが付いていきます。
夜も明けて、いよいよ放牧地へスタート
ついつい寄り道してしまう牛たちを軽トラが軌道修正
鳥海山の美しさ!
本当に素晴らしい姿でした。
おっと、寄り道しちゃだめだよ〜
さあ、こっちこっち。
ときには、走って先導も。
さあ、山へ。
ようやく落ち着いて進み出した牛たちに一安心。
徐々に陽も差してきました。
いよいよ到着?
着きました!
ほんとよく歩いたね〜
時間にして2時間くらいかな?
そりゃあお腹も空くよね。
最高のロケーションです。
牛たちも嬉しそう。
放牧地内にある池に写る鳥海山。美しすぎる。
「ここで、お肉食べる会ができたら最高なんですけどね」と、強くん。

どうですか? 最高ですよね。イベントも必ず実現させたいと思います。あ〜、にかほ最高だ。

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原稿:藤本智士 写真:山口はるか